大判例

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東京高等裁判所 昭和27年(行ナ)6号 判決

原告 加藤善次郎

被告 特許庁長官

一、主  文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は、原告の負担とする。

二、事  実

第一請求の趣旨

原告訴訟代理人は、昭和二十五年抗告審判第二号事件について、特許庁が昭和二十七年三月二十九日にした審決を取り消す。訴訟費用は被告の負担とするとの判決を求めると申し立て、被告代理人は、主文同旨の判決を求めた。

第二請求の原因

一、被告は、昭和二十四年三月二十八日、「千代鶴」の文字を行書体で縦書した商標につき、第八類利器及び尖刃器を指定商品とし、登録第二九五五五号商標の聯合商標として、その登録を出願したところ(昭和二十四年商標登録願第四九四九号)、同年十二月二十四日拒絶査定がなされたので、昭和二十五年一月六日これに対し抗告審判を請求したが(昭和二十五年抗告審判第二号)特許庁は昭和二十七年三月二十九日「本件抗告審判の請求は成り立たない。」との審決をなし、右審決書謄本は同年四月八日原告に送達された。

二、右審決の理由は次の通りである。

「本願商標は、「千代鶴」の文字を行書体で縦書し、第八類利器及び尖刃器を指定商品とし、登録商標第二九五五五号商標の聯合の商標として登録出願されたものである。次に原査定で本願商標の拒絶理由に引用した登録第二三六九八号商標は、楷書体で、「千代鶴」の文字を縦書きし、その上に「巾着」様の図形を配して成り旧第七類鉋、鋸、釿、鈩、鉞、鏨、鉈、鋏、鎌、錐、銑、針、釘、鋲、鑿、斧、鑚、手鍵、鐫、庖丁、洋刀、ナイフ、押切、剪刀、打抜、小刀、剃刀、鳶嘴、筋付刃物、木刺類其他利器及び尖刃器一切を指定商品とし、明治三十八年二月二日の登録出願で、同年七月六日登録、昭和十九年十二月十七日再度の存続期間の更新登録がせられたものである。思うに両商標の構成は上記の通りであるから、外観においては稍相違しているが、称呼及び観念において互に類似している。即ち前者は巾着様の図形を上部に配して成るものであるが、これが果して巾着の図形であるかどうかを予め知つている人は別として、このことを知らない一般の人がこれを見た場合には、取引上普通一般の注意を払つている人としてはそれがいかなるものであるかを判断でき難いものであつて、寧ろ、その下部の文字が商標として取引上重要な意義を有するものであるから、両商標は「千代鶴」の文字を同一にするが故に、互に類似の商標たることを免れない。

そして両者はその指定商品も互に牴触しているから結局、本願商標は商標法第二条第一項第九号に該当し、その登録はこれを拒否すべきものとする。

なお、抗告審判請求人は、本願商標は、出願人の元第一六八〇二二号登録商標であつたのを、存続期間の更新登録の時期を逸したため新規に登録出願をしたもので、その有効期間中引用の登録商標と無事に並存していたと述べているけれども、本願に対し商標法第二条第一項第九号の規定を適用するに当つては、本願商標を引用登録商標と類似するを以つて足り、既往において両商標が登録商標と並存し、而も商品の誤認混同を生ぜしめたことのない事実は、これを参酌しなければならないものではないから、所論はこれを採用することができない。

又引用登録商標の商標権者たる合資会社田中政八商店は商号変更後解散し、清算は昭和二十三年一月三十一日結了して営業が決定的に終熄して消滅した旨主張するところがあるけれども、当庁備付の商標原簿を査閲すると、前記登録商標が商標原簿上に現存している限り、この商標権は尚存続するものと看做さるゝが故に、前述の主張も、これを採用することができない。

三、しかしながら、右審決の理由は、次の諸点において不当であつて取り消されなければならない。

(一)  原告の商標は、「千代鶴」と草書体の文字で成つているのに対し、引用の商標は、巾着の図形を描き、その下に楷書体で「千代鶴」と書いた文字で成るものであるから、外観は紛わしくなく、また、前者は「ちよづる」と呼称せられるのに対し、後者は「きんしやくちよづる」と呼称せられ、称呼も紛わしくない。更に観念上からいうも、前者は「千代鶴」だけであるのに、後者は「巾着千代鶴」であるから、互に相違し、結局両者は外観、称呼、観念のいずれから云つても、類似するものではない。

(二)  原告の出願商標は審決も認定しているように、原告が従来有しており、昭和十九年中その期間満了にあたり、当時の空襲下、その更新登録出願の機会を失つたため消滅した登録第一六八〇二二号の商標と同一のものであつてその有効期間中は、引用にかかる登録商標とともに無事併存したものである。このことは両者が、商標の見方が微細である刃物の商標としては、取引者、需要者の間に、混同誤認のおそれのない非類似の商標として認められて来たことを有力に物語るものである。

(三)  最後に引用商標の商標権者合資会社田中政八商店は、昭和二十一年十二月二十日解散し、昭和二十三年三月二日、同年一月三十一日清算を結了した旨の登記をも完了しているから、おそくとも右昭和二十三年一月三十一日には営業を廃止し、前記商標権は、商標法第十三条の規定によつて消滅している。従つて、仮りに原告の商標が引用の登録商標と類似しているとしても、右引用にかかる商標権は、すでに消滅しているから、これに基き原告の出願を拒絶することは不当である。

第三答弁

一、原告主張の請求原因一及び二の事実は、これを争わない。

二、請求原因三については、次のように主張する。

(一)  原告の出願商標と引用登録商標とは、「巾着」様の図形の有無により外観上では多少の差がないわけでもないが、称呼、観念上からこれを見ると、審決に記載してあるとおり互に類似しており、これを非類似商標であるという、原告の主張は、不当である。

(二)  原告の出願商標が、原告の以前所有した登録第一六八〇二二号の商標と同一であり、その有効期間中は、これが引用商標と併存したことは争わないが、本件出願の審査に当つては、かかる事実を参酌しなければならないものではない。

(三)  会社の清算結了の登記がある場合でも実際会社の財産に属する債権の清算事務が残存する時は、清算結了の事実がないのであるから、会社は未だ絶対に消滅したものということができない。従つて清算人においてなお残存事務を遂行すべき義務があるものとする大審院の判決(大正四年(オ)第六〇九号、大正五年三月十七日判決)に徴するときは、前記の商標権は、なお特許庁備付の商標原簿上に現存していることでもあるから、この商標権は存続するものと看做さるべきである。又一方この商標権者が解散前にその商標権を他人に譲渡し、後日その移転登録申請ある場合がないことでもない。

従つて、原告の提出にかかる会社登記簿抄本(甲第六号証)によつては、引用の商標権が消滅したものと認めることはできない。

以上の理由により、審決には何等違法の点はない。

第四(証拠省略)

三、理  由

一、原告主張の請求原因一及び二の事実は当事者間に争がない。

二、よつて先ず第一に、原告が登録を出願した商標と、審決が引用した登録商標とが類似するかどうかを判断する。

その成立に争のない甲第三号証及び甲第四号証によれば、原告の商標は、「千代鶴」と行書体で縦に書いた文字によつて構成された商標であり、引用商標は、「千代鶴」の文字を楷書体で縦に書き、その上にの図形を附け加えて構成されている商標である。そして右の図形は、証人田中政八の証言によれば、桐の葉を図案化したものであるとのことであるが、審決がこれを「きんちやく」様のものと認定していることによつてもうかがうことができるように、一般の人に取つては、果してこの図形が何を意味するかということすら、容易に理解できないものであつて、これから明確な称呼、観念を生ずることは到底期待できないばかりでなく、外観からいつても、引用商標の主要部分は、「千代鶴」と縦書された文字の部分に存し、前記図形は単なる附記に過ぎないものと解するのを相当とするところ、引用商標における楷書体と、原告の商標に表わされた程度の行書体とは、これをいわゆる離隔的観察によれば、その差異を認め難い程類似している。して見れば右両商標は、外観、称呼、観念のいずれからいつても、類似の商標であると判断しなければならない。しかも右両者の指定商品が互に牴触するものであることは、原告の明かに争わないところである。

三、原告代理人は、右両商標はある期間有効に登録商標として併存したものであるから、両者は刃物の商標としては、取引者及び需要者の間に混同誤認のおそれのない商標として認められて来たものであると主張する。二つの商標が永く取引者及び需要者の間に混同誤認のおそれのない商標として認められたとの事実は、右両商標が類似するかどうかを判断するについて、有力な材料であることは疑ないが、単に両商標が、曾てある期間登録商標として併存したと云うだけの事実を以つて、両商標が取引者及び需要者の間に混同誤認のおそれのない商標として認められたとの事実を認定するこはとできないし、他にこれを認めるに足る証拠もない。

原告主張の請求原因三のうち(一)及び(二)の理由は、いずれもこれを採用することができない。

四、最後に原告主張の請求原因三の(三)について判断する。

その成立に争のない甲第五、六号証によれば、右引用にかかる前記第二三六九八号登録商標の商標原簿上の名義人訴外合資会社田中政八商店は、昭和二十一年二月十五日商号を合資会社田中商店と変更したが、同年十二月二十日解散し、次で昭和二十三年一月三十一日清算結了の登記をなしたことが認められ、更にその成立に争のない甲第十、十一、十二号証、当裁判所が真正に成立したと認める甲第八、九号証並びに証人田中政八の証言を綜合すれば、右会社は終戦後営業を廃止し現在営業を行つていないことが認められる。

しかしながら右証人田中政八の証言によれば、前記商標権者合資会社田中商店は、昭和二十一年解散にあたり、その営んでいた利器及び尖刃器等刃物についての営業を訴外静岡県田方郡利川村伊藤常三郎に譲渡すると同時に、前記の商標をも同人に譲渡し、同人は現に同商標を使用して該営業を継続していることを認めることができる。して見れば、同商標は、昭和二十一年中その移転があつた日から一年以内に商標権移転の登録を申請しないものであるから、商標法第十四条第二号の規定による登録取消審判の目的となるものではあらうが、同法第十三条により既に消滅したということはできないものと解せられる。

右原告主張(三)の理由も、採用することができない。

五、以上の理由により原告主張はいずれもその理由がないから、本件請求を棄却し、訴訟費用の負担について民事訴訟法第八十九条を適用して、主文のように判決した。

(裁判官 小堀保 梅原松次郎 原増司)

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